わかったつもり・聞きかじり経営
私は、2010年8月株主総会で経営の刷新を図りたいという前社長(父)の要請を受け、代表取締役社長に就任しました。
1888年(明治21年)創業、明治・大正・昭和・平成と激動する時代の大きなうねりを「和合」の精神で社員一丸となって乗り越えてきた会社です。何となく分かったつもりの経営哲学・手法を振り回し、社長のスタートを切ったので、傍から見れば本当に危なっかしい(それは今も変わりませんが)ものだったと思います。
歴史と伝統ある懐の深い会社でぬくぬくと育った私が、経営哲学を声高に叫んでも、社員一人一人の胸に響くわけがありません。まずは「会社を良くしたい!この会社を守り抜きたい!」と強い思いで、新しい小野組「小野塾」をスタートしたのでした。
聞きかじりの知識で演説し、経営方針を出すわけですから、会社のあちこちから「社長は、どこかで習ってきた話を我々に言っているが、業務は業務、仕事は仕事だ。何も変わらない。勉強熱心なのはいいが、今は仕事が大変なのです」と言われる始末。最初から上手く伝わるわけがないし、素直に実践すればいいと自分を納得させていました。
経営理念を制定、朝礼や全体集会、勉強会や社員との面談など、誰かが取り組んで良かったという話を聞くと、すぐにトップダウンで取り入れるよう指示を出し、それを受け取る相手の心まで気が行き届いてはいません。とすれば、どういう結果となるかは一目瞭然です。
やるべきことを明確にする・先ず思う
社長として、全従業員の物心両面の幸福のため、私のやるべき仕事は何か? 肩の力を抜いて考えると、社員一人ひとりの顔が思い浮かびました。
「そうだ!私は一人ではない。長い経験と高い能力ある社員が揃っている。社員が力を発揮できる環境を整えることに注力すればよいのではないか?」社長は組織をデザインすることができるのだから、もっと社員のことを知り、各部署の阻害要因を探り取り除くべきだと思いました。
さらに言うと我が社は、現場以外に稼いでいる場所はありません。「現場こそが全てだ。」と強く認識しました。「強い会社・良い会社」とは、「強い現場・良い現場」を持っている会社であり、社長自身がカリスマであることや特殊技能も持っていることは必須条件ではない!
社員一人一人が如何なく持てる能力を発揮し、その力を伸ばし、そして新たなことにどんどん挑戦できる職場環境にすることこそが、私に課された役割ではないのかと思うようになりました。そのために何をすべきか?急に頭が動き出した思いでした。
単純化して考える
腰を据えて話を聞くと、社員との一対一の社長面談や役員会、ミーティングにおいても、いま現場では何が起きているのか?市場はどう動くのか?人事や働き方の現状は?社員を支える家族の心情は?お客様の満足度や取引先との信頼関係は?ボロボロと問題課題が噴き出てきます。
これらの課題は複雑に絡み合い、とても一筋縄では解決できないようにも見えますが、複雑に見えても共通点が必ずあります。
面談や会議、ミーティングで出てきたに問題・課題、不平不満を書き出してみると、根本原因は「コミュニケーション不足」と「意義・目的を共有していない」こと。経営幹部の意思疎通ができていないということでした。
そこで、経営幹部全員で問題課題を話し合う研修会をスタートしました。
この研修は、問題解決の手法など「ハウツウ」を「コンサルテーション」するのではなく、自分たちの問題課題に自ら気付き、話し合いをファシリテートしてくれる「ファシリテーター」にお願いすることにしました。人は教わったことは、なかなか身に付きませんが、自ら体験して気付き、自ら気付いたことは忘れないのです。
自ら持っている常識を破る
経営幹部・中堅社員研修(チェンジミーティング)は、私にとって楽しいものとなりました。ファシリテーターの「なぜそう思う?」の繰り返しに行き詰まり、沈黙のまま時が過ぎていくこともありましたが、どんどん問題課題が出てきてつながっていく。それは「暗闇に光を得た」感覚でした。
1年近くを掛けた研修で出た答え・方針は、「創業125年の会社は、生まれ変わって次の125年を目指す会社となる」ということ。そのためには「人財確保」と「人財育成」が重要であると行き着いたのです。
単純なことだと思われるかもしれませんが、一年かけてじっくり話し込んだことで「何のために」が全社的に行き渡った感じがしました。
それは研修を通じて市場状況や会社の存続・進むべき方向、会社の利益構造や働き方、社会情勢など、あらゆる話から抽出されたものであったため、社員の納得感が違ったように思いました。
壁を突破する・決してあきらめない
我が社では毎年、中途入社も含めると30名前後の方が入社しています。
しかし、新卒者の合同説明会に行ってみても、我が社をはじめ、建設各社のブースはあまり人気がありません。弊社の担当者が精一杯の笑顔で声をかけても素通りです。
こういう「現場」こそ、社長が率先垂範。単純に考え、常識を破り、諦めずに創意工夫で壁を突破しなければならない。自然に「合同説明会や会社説明会は、都合のつく限り、私が陣頭に立つ!」と宣言しました。
ブースを訪れる数少ない学生の一人から、「実は、やりたい仕事が分からないのです。どうしたら良いですか?」と質問され、話し込むうちに、いつの間にか人生相談のようになっていました。
そうこうしているうちに「こんなに親身に話を聞いてくれる社長のいる会社に入りたい!」と言ってくれました。私自身、キョトンとしてしまいました。人手不足で入職者が欲しいというのは、あくまで我社の我慾です。我慾で説明しても上手くいくわけがない。
就職したい人、就活学生は自らの人生を幸せなものにするための場所、職場を探しているわけですから、「自利利他」相手の事を思いやることを忘れてはいけないのです。
知行合一
説明会で私は、「働く意義とは?会社とは?就活って何をするものなのか?」など、対話をしながら人生相談会をしています。その心は、「縁あって我社に来てくれればそれはそれでいいが、出会った学生が良い就職をして、立派な社会人になり、社会の為に尽くしてくれる人となってくれたらいい!」と思えたからです。
私もまだまだ未熟で、働く意義や、どうしたら人が幸せになるのかは模索中です。だから一生懸命学び、働いています。学ぶことと働くことは、一緒だと思います。『知行合一』という言葉どおりです。
我が社も「やりがいを持つ、自分を輝かせる、人の役に立ちたい」という信念を最優先として、「そのための努力を厭わない」というプロセスを大事にしていきたい。いまは分からないくていい。すぐに答えは見つかるものではありません。
入社していただいた社員は「小野塾」の塾生として学び続け、自分を高めていってほしいと思っています。ぜひ一緒に学びましょう!
※この文面は、2018年、小野貴史社長が参加する「盛和塾」での体験発表の一部を抜粋・再編したものです。
※小野組が実施する社内研修である「チェンジミーティング」は、現在「マネージメント研修」として幹部社員の研修に引き継がれています。
※「知行合一」は、「心との調和」、「自然との調和」、「社会との調和」という社是を一言で現したもので、小野組創業以来の精神的な柱としています。
※合同説明会、自社説明会においては、都合のつく限り小野社長が参加していますが、スケジュールの関係で参加できない場合もあります。小野社長の参加の可否は、お問い合わせください。